遊びの手法     ホームトップ    詳細トップ                    

            ママ・ママと何度も呼ぶ子どもから学んだこと

有明児童センター  児童厚生員

児童健全育成指導士 田中 純一

 

 私は、子どもを理解するためには、観念ではなくて、実際の子どもの目線のさらにその下にまで下がることが大切と考えている。理解するというのはunderstand(=下に立つ)であるということを、しっかりと自覚することが必要と考えている。このことについては子どもの目線の下からの大発見のコーナーに詳しく書いてあります。子どもの目線のさらに下に立ってunderstandしていると本当の子ども理解ができると思うのです。この手法を見つけてから、ずいぶんと楽になりました。子どもが何を考えているか、何を欲しているかが感じ取ることができるようになるからです。多くの子どもたちとunderstandして接してくると子どもが見えてくるようになるものです。(写真と本文は関係ありません)
            
 乳幼児サークルドラエもんは10組程度の就園前の乳幼児とお母さんの集いです。昼食を食べながら、とてもアグレッシブな子どものお母さんと話をしていました。2歳くらいの元気な男の子なのですが、時々物を投げたり、他の人を押したり危険な行為をします。
 「こういう場合どうしたら良いのですが?」とのお母さんの質問に
 「極端に悪いことをした手や足をパチンと叩いてあげることも必要です。」と私が言いました。お母さんは
 「でも叩いて育てていけないと習ったのですが?」
 「でもお母さんは実際は頭を叩くでしょ。」
 「はい。かっとなって叩くことがあります。」
 「だったら叩き方の工夫をすれば良いのです。」こんな話をしていたら、またその男の子は他の子どもの頭を叩いて泣かしていた。私はにこやかに近づき、男の子の目線の下まで低くなり、
 「この叩いた手は悪い子」と言ってパチンとやりました。男の子はビックリしたのですが、すぐにその後に
 「でもあなたは良い子です。飴をあげよう」と抱いてあげると嬉しそうにしていました。
 お母さんに多少のことは目をつぶり、本当に危険なときだけにきちんと叱る。しかもunderstandして感情をコントロールし、最後に
 「あなたは良い子」と抱きしめてあげることが必要と話をしました。お母さんの怒る量は3分の1になり、頭を叩くこともなくなりました。男の子も私のことを好きになり、私に抱かれて喜んで遊んでいます。男の子は時に危険な行為に対して、厳しく接することを望んでいることもあるのです。

             

 ドラエもんサークルの翌週のことのことです。さっきのお母さんが
 「この頃キーキーいうことが少なくなって良かった」との話をしていました。私がやはり
 「子どもをunderstandすると分かってくる」と話をしていたら、もう一人のお母さんが話しかけてきました。
 「うちの子どもは女の子どもで最近キーキーとうるさくて困るのですが,見てくれますか?」と聞いてきました。体育遊戯室に見に行きました。2歳くらいの女の子は
 「ママ・ママ」と声をかけてきました。お母さんは
 「はい・はい」と言いますが、子どもは
 「ママ・ママ」を繰り返します。お母さんは
 「はい・はい」と言うばかり。子どもは
 「ママ・ママ」を繰り返す。そのうちに二人でイライラし始めてきた。私は女の子の側に行き、女の子どもより小さくなって
 「なあに?」と聞きました。女の子は遊戯室の端にあるマットのほうに連れて行って欲しいという動作をしました。おもちゃの自動車を押して連れて行ってやると喜んでいました。
 この子がキーキーと騒ぐ理由が分かりました。1歳ちょっとまでは抱っこかおんぶでお母さんはいつも側にいたのです。ところが重くなってきて抱っこやおんぶの機会が少なくなってきました。お母さんを
 「ママ・ママ」と呼んだとき、子どもはお母さんに自分の顔の近くにきて欲しかったのです。でもお母さんはこのことを分からないで、立ったまま子どもに返事をしていたのです。子どもはママがまだ自分のところに来てくれないと思って呼び、お母さんは返事をしているのに、なんでまだ呼ぶのかとイライラし始めていたのです。ですから、お母さんが小さくなって子どもの顔を近くへ行って
 「なあに?」と言えば解決ができたのです。
 
 抱っことおんぶが出来なくなったころに、子どもはお母さんが自分から離れていったように感じるようです。そして暴力をふるって母親の関心をひきつけようとしたり、キーキーと喚いたりすることがあるようです。抱いたり、おんぶが出来なくても、逆にお母さんが子どもよりも低くなって子どもの話を聞いてあげれば子どもは満足するようです。これは乳幼児に限らず、小学生でも同じです。子どもの話を聞くときは子どもの目線のさらに下に下がって聞いてあげることも大切と思います。

 女の子どものお母さんにそんなことを話をし、子どもが
 「ママ・ママ」と呼んだら、側に行って子どもよりも小さくなって
 「なあに?」と聞く練習をしてもらいました。子どものキーキーは少なくなり、私はマジシャンのように尊敬されましたとさ。これはジョークですが、子どもの接し方を変えてみることもとても大切と思います。
 
 ママ・ママとうるさい子どもから学んだことでした。