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            児童館・児童クラブにおけるコミュニティーワークについて

有明児童センター  児童厚生員

児童健全育成指導士 田中 純一

 

 児童館・児童クラブにおけるケースワーク・グループワークに続いて、社会福祉援助技術であるコミュニティワークとソーシャルアクションの展開について考えてみたい。児童健全育成財団の児童館講座2社会福祉技術総論によればコミュニティワークの原則として以下のように述べられている。

 @個別化した対応の原則
 これは対象となる地域の主体性を尊重することで、それぞれに対して個別化した対応をするということである。また、住民の自主的参加を尊重するということでもある。
 Aプロセス重視の原則
 地域を援助する場合、地域の課題、問題の把握から計画策定、計画の実行、評価へと移していく一連の過程(プロセス)を重視し、組織化を図っていくことである。住民が地域活動に参加する中での協働や、問題解決に主体性をもたせることを重視している。
 B社会資源への関与の原則
 地域の福祉問題解決に向けて、人材、施設、保健や医療などの制度や資金などを様々な社会資源を調整し、結合し、計画して組織化していくことをいう。そして住民のもつ自立、協働の理念を基にして地域の社会資源の調整ばかりではなく、創設や開発にも力を注いでいくものである。
 C総合的把握の原則
 援助するにあたって、地域の問題を総合的にとらえるということである。対象を全体として(as a whole)理解することで、例えば発達遅滞の子どもをもつ家族の問題も、家族内の問題としてではなく、地域との関係で把握し、保健・医療、教育などの関連性の中で援助していくことをいう。
 D住民主体の原則
 地域の問題解決に住民が全体的に取り組むよう、コミュニティワーカーは側面的に援助していくことをいう。地域の問題はそこに住む住民の問題であり、住民の主体性を尊重しながらワーカーは専門的知識や、技術を提供していく。


 私自身もこうした原則を使いながら、児童館・児童クラブ・地域の自治会・公園の緑化活動などに挑んできた。そのいくつかを紹介し、その成果と反省を踏まえて今後の児童館・児童クラブにおけるコミュニティワークについて考察してみたい。

 昭和60年から平成6年まで、子育てのための講演会を地域で実行委員会を作ってやった。呼びかけは有明福祉会館とPTAであった。小学校PTA・中学校PTA・保育園保護者会・民生委員協議会・自治会連合会・福祉会館・児童センターなどが実行委員会を組織した。各団体の講演会費を集中させて、なだいなだ氏・見城美枝子氏・桂小金治氏・西山カバ園長氏など著名な講師に来てもらって200人から300人の講演会を10年間続けた。子育てを地域の住民にアピールする意義と各種団体の連携を通して地域の交流をはかることを目的としたものだった。限られて予算での講師を呼ぶことが困難となり10年をめどにやめることになった。

 平成7年からは新潟市の放課後児童健全育成事業であるひまわりクラブ合同のやんちゃフェスティバルを2000人規模で始めた。現在では5000人規模の行事となっている。
                
 新潟市の3館の児童館・児童センター、福祉公社、ひまわりクラブ、児童福祉課、保護者会などが実行委員会を作り、そのもとに行事委員が核となて10月の第2土曜日に実施している。お祭ステージ、露店、チャレンジコーナー、工作コーナー、遊びコーナーなどで盛大に実施している。

 平成11年より、有明児童センターのある有明福祉タウンと有明地区の町内会とが共同で実施しているのが、有明ふれあい夏祭りである。1500人程度の参加で、保育園・児童センター・福祉会館・病院・特養・軽費老人ホーム・自治会・民協等の団体が実行委員会を作って実施している。

 こうした地域との共同での行事はたしかに多くの成果を生んだ。同時にこうした行事を実施するためにはかなりのエネルギーを必要となる。上記の活動を行うためにはそのつど10回以上の実行委員会が開催される。実行委員会では最低2時間くらいは会議が必要となる。そのたびに職員を派遣しなくてはいけない。また前述のコミュニティワークの原則を実現するためにはかなりの調査等が必要である。児童館・児童クラブの職員は日ごろの仕事で忙しい(一生懸命の人は忙しい。忙しくない人は??)。また児童館・児童クラブの職員も他の職場の職員、PTAの役員・自治会の役員も年度ごとに変わることが多い。中心となる実行委員のメンバー以外は説明を聞いているだけが実行委員会での仕事となることもある。(こうしたことは地域での実行委員会だけではない。県や市などの諮問委員会やエンゼルプラン等の青少年健全育成のための委員会などでも行政説明を聞き、その方針に同意するためだけの委員会等も多いようだ。委員会に出ているよりも、職場で働いていたほうが青少年の健全育成になるのではと思ったこともある。)
 また児童館・児童クラブの現在の資質ではコミュニティワーカーといえるだけの資質があるとはいえないことが多い。このような段階でコミュニティワークの原則を知っていても役立たせることはなかなか困難である。

 私はこれらの現状の中で児童館・児童クラブにおけるコミュニティワークの展開をもっと地に足がついたものへと展開することが必要と考えている。その一つが実行委員会方式から活動のリンクするといったやり方である。
 児童センターで6月に行われるセンターに泊ろうの前身は児童クラブのお泊り会であった。児童クラブの子どもたち60人くらいの何もしない合宿としてやっていた。土曜日の夕方6時から始まって翌朝の朝9時に終わる泊るだけの合宿である。好評だったので、児童センター行事に昇格させた。その後100人以上の泊ろう会になり、有明父親クラブ・有明母親クラブとの共催行事になった。またスポーツ振興会から一緒にやらないかとの提案があり、スポーツ振興会とも共催行事になった。スポーツ振興会の人たちはテントをたてて、野外宿泊を提供してくれることとなった。また団体が多くなることにより、資金的にも余裕ができ、交通費が用意できるようになったので、2年前からは星空観察の人たちも仲間になってくれることとなった。昨年は火星の大接近を大きな望遠鏡で見ることができた。
 児童センター・父親クラブ・母親クラブ・スポーツ振興会・星空ファクトリーの活動はそれぞれリンクしている活動である。しかし互いに拘束しあう関係でないので、活動は自由でありしかも臨機応変でできる。最初から何もしない合宿と銘打ってあるので、雨が降れば野外宿泊と星空観測はなくなる。雨が降らなくても、都合が悪くなればなくなることもある。ですから、実行委員会も開く必要がない。だいたいの流れを連絡しあうだけで良いことになる。会議が少なくなるので遠くの人たちも仲間になってくれる。センターに泊ろうのために他県に引っ越した人がやってくることも多い。
 同様に福祉会館でのソーメン流しもリンクのやり方でやっている。ソーメン流しは福祉会館と自治会連合会と民協の共催行事である月一回の和みの部屋の活動の8月バージョンである。ソーメン流しに子どももいると楽しいとの提案で有明母親クラブの中の「ドラエモン」グループが2年前にソーメン流しに参加した。お年よりもたいへん乳幼児の参加を喜び、昨年から小学生も交えての250人ほどの集いになった。打ち合わせ1回と反省会1回で実現させた。ソーメン流しをするためには草取りが必要である。児童センターは子どもの遊び場確保のためにいつも福祉会館との間の広場を草取りをしている。それならば一緒にソーメン流しを楽しもうということになったのである。竹は民協の人たちが山まで採りに行ってくれた。草取りは子どもたちと児童センターと民協の人たちで天気を見ながらやった。実習生も7人がお手伝いをした。それぞれの持っている力を出し合ってそれぞれが主体となってやれば、できることは多いのである。

 第2にコミュニティワークの展開を児童館・児童クラブにおいては大きな意味において『遊び場環境作り』という点に主眼をおくことが良いのではないかとの考えである。ソーメン流しでの共同事業が実現したのは、日ごろ児童センターが草取り・ゴミ拾い・環境整備を職員の一番大切な仕事として位置づけたことによる。この遊び場環境作りの主張は平成14年度からはじめた。そして15年年度には職員だけでなく、子どもも含めて利用者全員が遊び場環境作りを展開することにした。(職員作業とは別に毎週土曜日に草取り・落ち葉拾いなどの活動を小1時間行うことにした)遊び場環境作りを通して、児童センター内の敷地だけではなくて、企業内保育所や隣の保育園の敷地や福祉会館・病院の敷地でも子どもたちが遊びに行くところは自分たちの手でキレイにする活動を展開し始めたのである。こうした自分たちの遊び場を自分達できれいにする活動を通して、同じ敷地を利用する他のグループとも仲良くなる下地ができたのである。

 他の児童館・児童クラブでも近所の公園等を使うことが多いと思う。まず自分たちの児童館・児童クラブをきれいにし、花と緑(プランタの花でも良いのです)環境を作り、その活動を近所の公園・広場へと拡大していく。その中で民協・自治会等との活動へとリンクしていけばずいぶんといろいろな活動ができるのではないかと私は思うのである。しかも遊び場環境作りつまり草取り・犬の糞の始末・花植え・花壇作り・木の剪定・ごみ拾いなどですから、誰でもできるボランティア活動なのです。

    

 活動のリンクがうまくいっているのは平島公園の活動である。平島公園の活動は平成5年より始めて丸10年となる。3人で始めた活動が毎月第1日曜日と第3日曜日に全体活動が行われ、年にのべ2000人のボランティア活動へと成長した。平島公園クラブ・平島一丁目自治会・仲良し会・長生会・有明児童センター・小針青山公民館・消防署・西土木事務所・公園水辺課・保育園・小学校・中学校・児童福祉課・近隣自治会・企業・子育てサークル・サッカーチーム・野球チームなどがうまい具合にリンクして活動している。公園をきれいにすることで、それぞれのグループや団体にとって有意義であることがリンクの最大の利点である。しかしながら、これらの団体を集めて会議のようなことはない平島公園ディキャンプなどで1回程度の打ち合わせを関係する児童センター・自治会・公民館で行うだけである。あとはオートマチックに自分のできることを自分でやって夢実現に努めている。
 リンクの関係を作るためには自己責任の原則が大切である。自分たちのグループの活動には自分で責任を持つ代わりに他のグループから命令・指示で動く必要もないというものである。平島公園を3人でやっていたときも60人の今の本質は何も変わっていない。草取りをする人たちはそれぞれ自立した個人として自分がやれることをやりたいようにやっている。他の人に命令する人はいない。出てくるように強制するする人もいない。やれる人がやれることをやれる範囲でやればよいのである。気楽である。公園の清掃のときにはでてこないけれど、公園の周りに花を植えてくれる人もいる。毎日ゴミを拾ってくれる人もいる。遊具の点検をしている人もいる。花に水やりをする人もいる。
 児童館・児童クラブの職員のコミュニティワークは遊び場環境作りにありと私は考えている。

 ソーシャル・アクションについて
 難しいことは必要ない。ますます子どもたちの遊び空間はハード面以上にソフト面で減少している。公園で子どもが安心してはだしで走れ回れるような環境を作ることは老人福祉・地域福祉・障害者障害児福祉・児童福祉・青少年健全育成・リサイクル運動・災害対策などユニバーサルデザイン的にみても有用である。またこうした公園や地域の花と緑作りは地域活性化・企業の活性化にもつながる。日本人の良さはどんな人でも掃除やお茶だし、草取りのできることである。日本人のアイデンティティーを取り戻すチャンスである。子どもの遊び場環境作り=草取り・ゴミ拾い・落ち葉拾いはソーシャル・アクションそのもので、誰にもできるからこそ実現したいことだと私は思う。