「ふぅー」
 「おつかれ、あさひちゃん」
ラジオ収録が終わり、私が一息ついているとマネージャーから声が掛けられる。
 「お、おつかれさまでした」
私は慌てながらも挨拶する。
 「明日も忙しくなるけど、頑張ってねっ」
 「は、はい。が、頑張ります」
マネージャーの励ましに頷き答える。
 「それにしても、相変わらず話すのは苦手みたいね」
その言葉に私の顔は赤くなる。
 「でも、テレビやラジオの前では喋れるから不思議なのよねぇ」
そう・・・私は人前で話すのは苦手・・・
それなのに皆の前で話せるのは、台本があるから・・・
台本通りに喋っているだけ・・・台本通りに・・・
でも・・・違う・・・私がなりたかったのは・・・
 
 「あさひちゃん、着いたわよ」
物思いにふけっていて、はっと気が付く。
いつの間にか家に着いていた。
 「あ、えっと・・・あ、ありがとうございました」
私の慌て振りにマネージャーは笑いながら
 「じゃぁ、今日はゆっくり休むのよ」
と言って車を出す。
そして、私も家の中へと入っていく。


 「ただいま」
誰も居ない部屋に私の声だけがこだまする。
 「ふぅ、今日も疲れたなぁ」
そう言いながらシャワーを浴びる為、バスタオルと着替えを用意しはじめる。
その時、ふと ある本に目がとまる。
それは先月、私が即売会で買った本。
かずきさんが描いた本。
私の中で、その日の記憶が甦る。
今、思い出しただけで顔が熱くなる。
あの日、私は即売会で1冊の本と出会う・・・
それが、かずきさんの本・・・
アニメのパロディ本だった。
表紙の絵を見て私は一目で読んでみたいという思いが溢れた。
その繊細なタッチで描かれた表紙に・・・
そして、なにより私はアニメが好きだから・・・
でも、「読まして下さい」という一言が言えなかった。
アイドルとなり台本通りに話せる事は出来ても、いざ人前で話をするとなると声が出なかった。
そんな時、かずきさんが声をかけてくれた。
「読まないか?」と・・・
私は嬉しかった・・・
今までは、誰もそんな事を言ってくれなかったから・・・
それでも、私は受け取るだけでお礼が言えなかった・・・
そんな自分が嫌い・・・
いくら、アイドルとして皆の前で話す事が出来ても それは台本があってこその演技・・・
本当の私は今も昔も何も変わっていない・・・
それではいけない・・・
自分を変えたいからこそアイドルになったのだから・・・
そういえば、明日は即売会がある日。
マネージャーには、無理を言って行ってこよう・・・
そして、かずきさんに会って・・・会って謝りたい・・・お礼も言いたい・・・
そうしなければいけない・・・
自分を変える為にも・・・
なにより、また かずきさんの描いた漫画が読みたいから・・・