夢と野望と欲望がうずまくワンダーランド、通称こみパ。
この平和なこみパに邪悪な魔の手が迫っていようとは、今はまだ誰も知らないのであった。

こみパ会場内、今日も大人数でにぎわう会場内に1人の少女がいた。
「きょ、きょうこそは、大庭先生に、ス、スケブを頼むんだから!!」
眼鏡をかけた可愛い女の子が、スケブを両手で握り締めながら自分に言い聞かせるようにつぶやいている。
と、その時である。
ちゅどどどーん!!
突然、会場内に爆発音が響き渡った。
「えっ、えっ、な、なに、なにっ!?」
女の子は驚いて周囲を見渡す。
そして、原因はすぐに判明した。
女の子のいる場所から少し離れた場所、簡単に説明すればギャルゲージャンルのあたりで10メートル近くの怪物が立っていたのだ。
もう少し詳しく説明すれば、女の子の目的の大庭詠美のサークルもこの近くにある。
怪物の姿はといえば、何万冊もの同人誌が山積みになったかのような身体、その身体からひょろっと伸びた腕。
ちなみに腕の先は、何やらタンクのような形をしている。
そして怪物の顔はといえば、人気作品『東鳩』のメイドロボの顔をしていた。
「モ〜〜〜エ〜〜〜!!」
その怪物は、謎を叫び声を発すると右手を前方に突き出した。
次の瞬間、右手から黒い液体が発射された。
その黒い液体は、まるで洪水のように周囲を襲い、人も机も同人誌も全てが真っ黒になった。
先ほどの女の子も例外ではなく、真っ黒になってその場に立ち尽くしている。
「な、な、なんなの………い、い、い、一体…」
女の子は真っ黒になった自分の身体を見て呟いた。
その黒い液体は、特に人体に害はないようで単なる黒インクのようであった。
「あっ…大庭先生のスペースも、まっ、真っ黒に……」
女の子はショックで、その場にへなへなと座り込んでしまった。

……一方、場所は変わってこみパ準備会特別控え室。
「牧やん、大変や!!」
大きな声と一緒に由宇が控え室の扉を開け入ってきた。
走ってきたのだろう、由宇は息を切らせている。
部屋の中では準備会スタッフである牧村南が巨大スクリーンに映っている会場の様子を見ていた。
もちろん、そこには例の怪物が映し出されている。
南は落ち着いた様子で振り返り、由宇に話し始めた。
「ええ、わかっています。とうとう、この日がやってきたのですね。かつて、宇宙よりこみパ会場に落下した物体。最初は単なる隕石かと思いました」
「でも、それは生きていた」
突如、南とは別の方向から声が聞こえてきた。
そこにいたのは、編集長だった。
「その物体は私達の監視の隙をみて地下に逃走。その際、物体は数万冊の同人誌を己の身体に吸収していった」
「それからは、その謎の物体は行方不明やったが、今日、再びこみパ会場に現れたわけやな」
「はい。あの怪物の『モ〜〜〜エ〜〜〜!!』という叫び声は、あのときの物体の叫び声と同じです。そして…」
南は一呼吸いれて、大きな声で叫んだ。
「そして今こそ、萌え超燃え激萌え、通称『MMM(スリーエム)』の出番なのです!!」
説明しよう。MMMとは、かつての謎の物体飛来以来、準備会が今回のような事態を想定して結成された組織である。
最高責任者に編集長。博士に牧村南。作戦参謀に猪名川由宇。オペレーターに長谷部彩。
そして、勇者こと千堂和樹の主要5人で形成される最強萌え軍団なのだ。
「現時点で、あの怪物をMK(モエキャラ)−02と認定します。彩さん!!」
編集長が叫ぶ。
「………和樹さん、……出番……です」
そして、いつの間にかいた彩が、部屋に備え付けられているマイクに向かって呟いた。
すると先ほどまで怪物が映し出されていた巨大スクリーンの画面が切り替わり、勇者和樹の姿が映し出された。
「待ちくたびれたぜ、彩!!イークイップ!!」
和樹が叫ぶと身体が金色の光に包まれた。
光がはれると、先ほどまでは普通の私服だった和樹の姿が、黄金の鎧を身にまとった姿へと変わっていた。
再び説明しよう。勇者千堂和樹は、MMM結成時に勇者として強引にサイボーグへと改造されたのだ。
イークイップによる戦闘モード変化により常人の1.3倍という微妙な戦闘能力を得ることができる。
そんなわけで話しの続きをどうぞ。
「いくぞ、ウィルGペン!!」
和樹がサバイバルナイフくらいの大きさのGペンを握り締めて、怪物に突進していく。
「モ〜〜〜エ〜〜〜!!」
怪物は和樹に向かって左手を突き出した。
そして白い液体が発射される。
どうやら、今度は修正液のようだった。
「ふん、こんなもの簡単によけ…………られるかーーー!!」
修正液は、まるで津波のように和樹に襲いかかる。
所詮は常人の1.3倍の身体能力の和樹では、どうすることもできない。
無残にも修正液に飲み込まれた和樹は、全身白い液体まみれになってしまった。
白い液体まみれと書くと、少し18禁っぽい気もするが気にしないでおこう。
「くそぅ…このままじゃやばいぜ……」
顔の修正液をこすり落としながら、和樹は呟く。
超接近タイプの和樹にとっては、長距離射程可能な怪物を相手にするのは分が悪すぎた。
ピピピ…
和樹が悩んでいると、腕に取り付けられた通信機がなった。
スイッチを入れると、オペレーターの彩の声が聞こえてきた。
「………和樹さん…。大丈夫です。………今、そちらにニャレオンが向かいました………」
ズズーン!!
彩の通信が終わるか終わらないかというタイミングで、4〜5メートルはある巨大な猫が和樹の前に現れた。
「ニャレオン!!」
和樹がニャレオンと呼んだこの巨大な猫。
かつて謎の物体が姿を消した数日後に、こみパ準備会に現れた、これまた謎の猫である。
準備会に現れると同時に丸くなって眠りについていたニャレオンだったが、MK−02の出現と同時に目を覚ましたのだ。
さらに説明すると、ニャレオンの首輪には多くの超技術が記されていた。
和樹のサイボーグ改造も、このニャレオンから得た技術を元にしたものである。
「………ニャレオン、敵MK−02に向かっていきます………」
「よっしゃー、行けーーー!!猫パンチをお見舞いするんや!!」
MMM本部の巨大スクリーンには、謎の怪物に立ち向かう巨大な猫、さながら特撮映画のような光景が映し出されている。
だが、その光景も長くは続かなかった。
スクリーンでは、ニャレオンがMK−02の攻撃の前に押され始めていた。
「ニャレオンでもあかんか…」
MMM本部に重い空気が流れる。
そんな中、現場の和樹から通信が届いた。
「編集長、フュージョンの許可を!!」
「えっ、でも、フュージョンは………」
編集長は、南の方へ視線を向ける。
南は編集長の視線を受けとめ、コクリと頷いた。
「フュージョンの成功確率は98%、大丈夫です」
「わかったわ。和樹君、フュージョン承認よ!!」
「よっしゃー!!いくぜ、フュージョン!!」
編集長の通信を受けた和樹は、いきおい良くニャレオンに向かって走り出した。
そしてニャレオンの目の前までいくと……
パクッ!!
ニャレオンは和樹を食べてしまったのだ。
モグモグ………ゴクン。
ニャレオンがおいしそうに和樹を飲み込むと、次の瞬間に変化は起こった。
ニャレオンが、先ほどの和樹のイークイップの時と同じく光に包まれたのだ。
やがて光の勢いが収まり、姿をあらわしたのは5〜6メートルはある巨大な、それでいてショートカットで可愛いタイプの女の子だった。
「チサガー!!」
女の子の中から和樹の声が聞こえた。
そうなのだ、和樹はニャレオンに食べられることにより戦闘ロボ『チサガー』となるのである。
「これなら負けないぜ!!行くぞ、MK−02!!」
チサガーがMK−02に向かって走りだそうとした時だった。
コケッ!!
チサガーは、地面に沢山ある机につまづいて転んでしまった。
ズズーーン!!
チサガーが転ぶと同時に大きな地響きが広がる。
「………チサガー、損傷率80%オーバー。……非常に危険な状況です………」
「くそっ、チサガーがこうも簡単にやられるなんて………こうなったら、ウチがあいつをやっつけたる!!」
由宇がハリセンを片手に現場へ向かおうとする。
しかし、それを制止するかのように再び和樹から通信がMMM本部へとはいってきた。
「待て、由宇!!俺は、まだ負けちゃいない。編集長、ファイナルフュージョンの許可を!!」
和樹のファイナルフュージョンの要請。
それは3体のガオーマシンを使用したチサガーの最終合体の要請である。
理論上、この合体によりチサガーは最強の勇者へと変身することができる。
「無茶よ、和樹君。ファイナルの成功率は1%を切っているわ。もし、失敗したら貴方の身体は…」
ファイナルフュージョンの失敗、それはボロボロのチサガーの状況を考えれば下手をすれば死に繋がるものだった。
「大丈夫、俺は勇者だ!!必ず成功させてみせる!!」
和樹の熱い叫びにこたえたのは由宇だった。
「よくいったで、和樹。根性と萌えがあれば不可能を可能する。それが勇者やもんな!!編集長、うちからも頼む、ファイナルフュージョンの許可を!!」
由宇が編集長へ視線を向ける。
編集長も何かを決意したように強く頷いた。
「わかったわ。ファイナルフュージョン承認!!」
「……ファイナルフュージョン……プログラムドライヴ…………ポチっとな……」
編集長の叫びに続き、彩がファイナルフュージョンのプログラムを発動ボタンを押す。
「ファイナルフュージョン!!」
和樹が叫ぶと、チサガーから大量の煙が放出された。
その煙にチサガーの姿は隠れる。
そこへ本部から射出された3体のガオーマシンが煙の中へと突っ込んでいった。
それぞれ『猫ミミガオー』『制服ガオー』『魔女スティックガオー』という萌えには欠かせない3体である。
中でどのような合体シーンが繰り広げられているかは、皆さんの想像にお任せしよう。
やがて煙がはれてくると…………そこには、さきほどより巨大な…MK−02と同等の10メートルほどの女の子がいた。
猫ミミ、制服、魔女ッ娘、3体のガオーマシンと合体した最強の勇者が誕生したのである。
「チサガイガー!!」
和樹の叫び声が響き渡る。
そして、そのままチサガイガーは頭についた猫ミミをMK−02に向けた。
「ブロウクンマグナム!!」
和樹が叫ぶと猫ミミが激しく回転をはじめて、まるでロケットパンチのようにMK−02に発射された。
その猫ミミは見事MK−02に命中し、そのまま数メートル吹っ飛んだ。
「モ〜〜〜エ〜〜〜!!」
MK−02は、よろよろと起きあがると右手のインク砲をチサガイガーに向けて放つ。
「そんなもの!!プロテクトシェード!!」
チサガイガーはどこからともなく巨大なコピー用紙を取り出した。
そしてMK−02の放ったインク砲は全て、そのコピー用紙に吸収された。
「モ〜〜〜エ〜〜〜!!」
MK−02が動揺したようなうめき声をあげる。
「まだまだ!!連続ブロウクンマグナム!!」
間髪いれずにチサガイガーが連続で猫ミミを発射する。
MK−02は、その全てを受け大きく倒れこんだ。
「どうだ!!」
和樹は勝利を確信した。
しかし、次に和樹が見た光景は信じられないものだった。
多数のブロウクンマグナムを受けたMK−02の身体が、早くも回復していたのである。
「なにぃ、奴は不死身か!?」
和樹が驚きを隠せないでいると、彩から通信が入ってきた。
「………和樹さん。……MK−02の中心分に高エネルギーの萌えが確認されました。おそらくは、そこが敵の核のはずです…。その……核を狙ってください………」
「わかったぜ、彩!!ならば、あれで決める!!」
チサガイガーは、再びMK−02に対して構えをとり、そして叫んだ。
「ヘル!!アンドヘブン!!」
するとチサガイガーの両手に強力なエネルギーが収束される。
「ゲル・ギム・ガン・ゴー・グフォ…」
そしてそのまま、チサガイガーは両腕を前に出し手を組み拳をつくった。
例をあげれば、キグナス氷河のオーロラサンダーアタックのような構えである。
チサガイガーは、その状態で敵に突っ込んでいった。
そしてチサガイガーの拳はMK−02の胴体に突き刺さった。
これぞ、萌えエネルギー全てを両手に集中させて敵にぶち込む、チサガイガー最強の必殺技である。
「うおおおおおお!!」
そのまま、チサガイガーはMK−02の体内から核を引っ張り出した。
出てきたのはピンク色したハートの形をした核だった。
一方、核を失ったMK−02のボディは、あっさりと爆発した。
「やりました!!」
「よっしゃー、和樹、ようやった!!」
「さすが勇者ね」
MMM本部で、敵を撃破した喜びの声が響きわたる。
しかし、その喜びも彩の一言で再び緊張に変わった。
「……和樹さんのアドレナリン値上昇…。制御できません………」
「そんな、萌えエネルギーが高まりすぎたの!?」
「なぁ、牧やん。ってことはどうなるんや?」
「簡単に言えば、暴走よ。由宇ちゃん」
南の言ったとおり、和樹はまさに暴走寸前だった。
「うおおおおおおおおお!!!!」
雄たけびとともに、そのまま取り出した核を握り潰そうとする。
「それを壊しちゃダメ!!」
どこからか女の子の声が聞こえた。
よくみるとチサガイガーの前に、可愛らしい衣装をきた女の子がたっていた。
「あれは………ピーチ?」
編集長が呟いたのは、大人気のアニメにでてくるキャラの名前だった。
確かに、その女の子は編集長の言ったとおり、ピーチに似ていた。
みんなが呆然と見つめる中、女の子は軽くチサガイガーに手をかざす。
「…………和樹さんのアドレナリン値が正常に戻りました………」
「えっ?」
一同、驚きの声を上げた。
一方、女の子は今度は取り出した核に向かって手をかざす。
「クーラティオー!!……(中略)……コクトゥーラ!!」
女の子が何やら呪文を唱えると、なんと核が人間の姿になったのだ。
「なっ…」
編集長たちは、すでに声を失い呆然と見とれていた。
そして女の子は核を人間に戻すと、そのままどこかへと消えてしまった。
「な、なんだったんだ、あの子は…?」
こうして数々の謎を残しつつ、事件は解決した。
後日、核となっていた人物は禁愚ジャッキーと反面。
またしても落選してムシャクシャしていたところに、謎の男に変なものを渡されたという。
それからの記憶は無いということであった。
ちなみに禁愚ジャッキーが申し込みしたのは、ギャルゲー(東鳩)スペースのマルチ本だったと判明。
MMM本部は、謎の男こそMK−01と判断し、ふたたび警戒態勢を強化するかまえを見せている。

一方、話しは事件解決直後に戻る。
「………はぁはぁ……な、何だったの一体………」
会場の片隅で女の子が息をきらせている。
手には真っ黒になったスケッチブックを持っていた。
「きゅ、きゅうに身体がピンク色に光ったと思ったら…い、衣装まであんなのに……」
女の子は不思議そうに自分の身体を見つめた。
「それで、あの怪物さんも人間に戻しちゃうし………怖くて逃げてきたけど、あ、あたしって一体…何なの?」
女の子は深くため息をついて、その場に座り込んでしまった。
「それに、それに…………また大庭先生にスケブ書いてもらえなかったーー!!」
会場内に女の子の悲痛な叫びが響き渡った。

勇者王チサガイガー第一話完!!