プロを目指す数々の修羅たちが集う場所、こみっくパーティー。
これは同じく栄光をつかむために頑張る少女の物語である……多分……(笑)

「中山、一つ聞いていいか?」
メガネをかけた少年が、連れと思われる女の子の方を向きたずねた。
「何でしょうか、渡部先輩♪」
すると渡部先輩と呼ばれた少年は、ビシッととある集団を指差して叫んだ。
「何であいつらまでここにいる!!」
そこにいたのは、担任のみか先生をはじめとする彼のクラスメイトたちだった。
中山はちょっとバツの悪そうな顔をして答えた。
「はう〜、ごめんなさい。中山、渡部先輩にこみパに誘われたのが嬉しくて、今日のことを皆さんに喋っちゃいました〜」
中山がそんなことを言っていると集団の中から、1人の少女が話しに割り込んできた。
「ま〜ま〜、そんなに怒らない、怒らない」
話に割り込んできたのは小林だった。
「それにしても、あんたが中山さんをデートに誘うなんて結構ビックリしたわよ〜♪」
小林は妙に嬉しそうだった。
だが渡部はそれを否定した。
「それは違うぞ」
渡部の反応に小林はキョトンとなった。
「えっ、違うの?」
「そうだな、言うなれば………新人研修かな?」
「何それ?」
「まあ、中に入ればわかる。行くぞ、中山」
「あっ、渡部先輩、待ってください〜」
こうして2人は会場の中へと入っていった。
そしてそれを追うように、みか先生たちも会場の中へと入っていった。

こみパ会場内………
「渡部先輩、どこかお目当てのサークルでもあるんですか〜?」
中山が歩きながらたずねる。
こみパにも慣れているようで、人ごみに流されることなく軽やかに歩いている。
「知り合いのサークルが参加しているんだ。今日はそこに用がある」
こちらも目的地に向かってすいすいと歩いている。
しかし、みか先生たちは苦戦しているらしくなかなか前に進めない様子だった。
しばらく会場内を歩いていて、とあるスペースの前で渡部が足を止めた。
「ふはははは、よくぞきた!!マイ同士!!」
そこには、見るからに危ないオーラをはなった男がいた。
「渡部先輩。あの人、だれですか?」
「うむ、あいつは俺の同人仲間で九品仏大志という奴だ」
「よろしく、中山女史」
いつのまにか、渡部たちの背後に回った大志が中山の耳元でささやく。
「うぴゃ!!」
中山は驚いて飛び跳ねた。
「ふっふっふっ、元気のいい子ではないか」
大志はなんだか満足そうだ。
一方の中山は大志に脅威を感じたのか、渡部の後ろに隠れぎみになっていた。
「大丈夫だ、中山。危険はないから俺の後ろに隠れるな」
「で、でも〜」
渡部がなだめても、中山はまだ警戒をとかない。
とりあえず渡部は話を進めることにした。
「それはそうと、例の件は大丈夫だったか?」
「ふははははは、もちろんだとも!!」
「例の件?」
中山が小首をかしげる。
「ああ、実は今日ここにきたのは、中山の特訓を頼むためなんだ」
「特訓?」
それを聞いた中山の目が点になった。
「そのとうり!!まずは、この本をみよ!!」
大志はそう言うと1冊の同人誌を取り出した。
「どれどれ………この独創的な絵って中山さんの同人誌?」
「独創的って言うか、下手でしょ?」
その本を見たみか先生と富永が感想をもらす。
「って、先生と富永、いつの間にいたんだ?」
「最初からいたわよ。出番がなかっただけで」
富永が少し不服そうにつぶやいた。
「ふ〜ん、それで他の奴らは?」
渡部の問いに答えたのは、今度はみか先生だった。
「他のみんなは会場内に入ったら、人ごみに飲まれてあちこちに流されちゃったよー」
「うむ、獅子は我が子を谷に突き落とすという。その者たちもこの試練を乗り越えて立派なオタク戦士になるのだ」
大志が1人で何やら納得している。
「ところで、この中山の同人誌がどうしたの?」
話を戻したのは富永だった。
「中山女史の同人誌?ふっ、それはちがうぞ!!」
大志が余裕の表情で否定した。
「じゃあ誰のだっていうのよ。この下手な絵はどう見ても中山のじゃない」
「うわーん、富永先輩、ひどいです〜」
富永のきつい言葉に中山は涙目になっていた。
そして、中山とは別のいじけた声がどこからともなく聞こえてきた。
「ぱぎゅう〜、ひどいです〜」
そう言いつつ出てきたのは、黒髪ロングのちょっと頭の足りなさそうな女の子だった。
「九品仏君、彼女は?」
みか先生がたずねた。
「ふははは、彼女こそがこの同人誌を書いた、御影すばる女史だ!!」
「えーーーーーーっ!!」
大声を上げたのは中山だった。
まるで、つちのこでも発見したかのような驚きようである。
「御影すばるって、あのコミックZで『たたかえ!!サイバーみなごろしロボ』を連載している、あの御影すばるですか!?」
「ええっ、本当!?」
中山のセリフを聞いた、みか先生も驚愕の声をあげた。
「そのとおり。さすがは中山女史、見事正解だ」
大志が軽くメガネに手をかける。そして、一呼吸置いた後、話を続けた。
「この同人誌はすばる女史が漫画を書き始めたころの同人誌。確かに下手だ。というか何を書いているのかわからん!!」
「ぱぎゅう〜」
大志の話の脇で、すばるがへこんでいた。
しかし、それにはかまわず大志は話を続けた。
「しかし!!すばる女史は血もにじむような特訓をしその結果、皆が知るようにプロになるまでになったのだ」
「そこで今回、同レベルの画力の中山の特訓を、この御影すばるさんに頼んだというわけだ」
最後に渡部が今回の目的を補足した。
「ええええええええっっっーーーーーー!!!!!」
先ほどより大きな声で中山が叫んだ。
「そ、そんな、すばるさんに特訓だなんて、中山………」
あまりの出来事にパニックになってる中山に対して、すばるはやさしく微笑み手を差し伸べた。
「中山さん、大丈夫ですの。すばるにおまかせですの!!」
「…………すばるさん……私、頑張ります☆」
中山がすばるの手を握り返した。
なんだか効果音が聞こえそうな雰囲気が周囲に広がった。
「なんだか、感動的ー♪」
「そう?」
対極的な意見の、みか先生と富永。
「まあ、なにはともあれ商談成立だな!!」
「頑張れよ、中山!!」
渡部が中山に激をおくる。
「はい、中山、立派な漫画家になるために頑張ってきます!!」
「それじゃあ、すばるも一生懸命教えますですの〜!!」
こうして、すばると中山は早速、特訓のためにこみパを後にした。
「ところで先生たちは、この後どうするんです?」
「そうねー、みんなを探すついでに会場を回ってみようかな」
「ほんなら、うちが案内したるで」
いつ現れたのか、みか先生の横に関西弁の女の子が立っていた。
「だ、誰?」
富永が少しビビりながらたずねた。
「うちか?うちは猪名川由宇。大志やスの字の知り合いや」
猪名川由宇と名乗った女の子は自己紹介が終わるやいなや、みか先生と富永の手を取りダッシュした。
「ほな、行くで〜!!」
一陣の風が会場内を吹き抜けた。
「先生、富永、頑張れよ〜!!」
渡部はのん気に見送った。
・・・・・・
「さあ、ついたで。ここがこみパの華、コスプレスペースや」
「うわーっ、すごーい」
みか先生が素直な感想をもらした。
目の前にはいろいろなキャラの衣装を身に纏った人々が山のようにいた。
「あっ、あれってツービースのキャラの衣装だ。すごーい♪」
みか先生は大喜びだ。
そんな様子を由宇は満足そうな表情でみていた。
しばらくコスプレスペースを見てまわっているうちに由宇は馴染みの顔を見かけた。
「瑞希っちゃん、そんなところでどないしたん?」
由宇が声をかけた。
瑞希が由宇に気づき振り返った。その振り返った表情は不機嫌そうだった。
「何があったんや?」
由宇がたずねると、瑞希は溜まった愚痴でももらすかのように語り始めた。
「それが聞いてよ。私がピーチのコスをしていたら、どこからか変な男がきてピーチの衣装を着せてくれっていうのよ」
その瑞希のセリフを聞いた富永は少し嫌な予感がした。
「あんまりしつこいから貸したんだけど、なんなのよ、あいつは!!」
瑞希は話しているうちに怒りが復活したらしく興奮気味になった。
「それで、そいつはどこにいるんや?」
「あそこよ、カメコに囲まれてるわ」
瑞希が指さした方向を見ると、たしかにカメコの集団が出来ていた。
「ちょっとすみません、通してください」
由宇たちがカメコの集団の中を潜り抜けると、そこにいたのは…………関だった。
「関君!!なにしてるの!!」
みか先生が叫ぶと、関は気づいて近づいてきた。
「どう、似合う?」
「似合う?、じゃないわよ。何してるのいったい」
富永が冷静に言う。
「いや、あまりに可愛い衣装だったから、つい着てみたくなったからさ〜」
そう言いながら軽くポーズをつける。
「あれ、先生の生徒か?」
由宇が横にいたみか先生に尋ねた。
「ええ、まあ…………」
みか先生はちょっぴりバツが悪そうに答えた。
「なかなかやるやないか」
由宇から返ってきたのは意外なセリフだった。
「男の女性キャラのコスはたまにおるけど、あそこまでレベルの高いのはなかなかおらへん。ムダ毛の処理、化粧、しぐさ、どれも完璧や」
由宇はしきりに感心していた。
「あ、あははは……そうかな〜………」
みか先生はどう答えたいいのかわからずに、愛想笑いをするしかなかった。

一方、そのころ……工藤と末武は………
「へー、ここっていろんな漫画があるんだな〜」
末武が興味深そうに会場内を歩き回っている。
その姿を工藤は熱い視線で見つめていた。
「あなた、彼に恋しているわね」
「えっ?」
突然の図星をつかれたセリフに驚いて工藤が振り向くと、そこにはボーイッシュな女の子がいた。
「わかる、わかるわよ〜。彼へのその熱い思い。けど面と向かって言えないその苦しさ」
女の子はなにやら1人で納得しているようだった。
「あの、あなたは?」
工藤はその女の子の名前を尋ねた。
「私?私は芳賀玲子。ボーイズラブを極めた私に君の彼への視線はごまかせないわよ」
そして、ビシッと工藤に人差し指をさした。
「そ・こ・で、私があなたと彼の愛のキューピッドになってあげる、にゃはははは〜♪」
「ほ、本当か!?いったい、どうやって!?」
「それは〜ごにょごにょごにょごにょ………」
「おおっ、マジ?」
「まかせてよ、にゅふふふふ〜♪」
こうして悪巧みを終えた2人は、末武の元へ駆けていった。
「お〜い、末武〜!!」
「どうしたんだ、工藤?」
「実は、彼女は俺たちをモデルに絵を描きたいんだって」
工藤がそう言うと、横から玲子がひょっこりあらわれた。
「にゃはは、実は2人が今度描こうと思っていた漫画のイメージにぴったりだったからぜひお願いしたいんだ〜☆」
玲子がニコニコしながら、お願いのポーズをする。
「なっ、せっかく可愛い女の子が頼んでいるんだ。やろうぜ」
工藤は熱心に末武にモデルを進める。
「うん、おもしろそうだからいいぜ」
(やった!!)
末武の返事に工藤は心の中でガッツポーズをした。
「本当?それじゃあ、早速なんだけど2人で抱き合ってくれる?」
「えっ、なんで抱き合うんだ?」
末武が不思議そうな顔でたずねた。
「そういうシーンがあるのよ〜、ねっ、お願い☆」
玲子が満面の笑みでほほえむ。
「まっ、いっか」
末武もすんなり了承した。
「そ、それじゃあ、い、いくぞ」
工藤は緊張のあまり声が震えていた。
「こんな感じでいいのかな?」
そんな緊張した工藤を関係なしに、末武はあっさりと工藤に抱きついた。
と、次の瞬間であった。
ぷしゃ〜〜〜〜!!!!
工藤が大量の鼻血を噴出した。
そして、そのまま倒れてしまった。
「工藤くん!!」
「工藤、大丈夫か!!」
工藤はそのまま救急車に運ばれていった。
そして、後に芳賀玲子はこう語る。
「あんなに幸せそうな顔で気絶した人、初めてみたよ〜、にゃはは♪」

その頃、再びコスプレスペース。
「ほな、次は会場内をまわってみよか」
関のピーチコスを十分堪能した由宇たちはコスプレスペースを後にして、会場内をまわることにした。
しばらく会場内を見ていると、みか先生がとあるスペースで足を止めた。
「あっ、これってこの間読んだツーピースの同人誌だ。うわ〜、うまーい」
みか先生が足を止めたのは、以前読んで感動したツーピースという漫画の同人サークルだった。
「せっかくこみパに来たんだし、記念に買っちゃおうかな。すみません、これください」
みか先生がツーピースの同人誌を指差してそう言った。
しかし、サークルの人は少し困っている様子だった。
そして、みか先生にこう言った。
「あのね、お嬢ちゃん。この本なんだけど、大人向け(やおい)本だから、ちょっとお嬢ちゃんには売れないの」
そう言われてしまったみか先生は固まってしまった。
「わはははははははははは♪」
一方、後ろにいた富永と由宇は大爆笑だった。
・・・・・・
「えう〜、しくしく」
みか先生はいまだにさきほどのサークルでのショックが抜けきれなかったようだった。
「先生、元気だして………ぷっ、あははは♪」
慰める富永も、まだ笑いが残っている。
「でも、なんちゅうか、みか先生のようにプチな方がこの会場の男たちにはもてるで〜」
「あう〜っ、その慰め方、あんまり嬉しくない〜」
みか先生がまた泣き出した。
「あはははっ、………あれ、あそこのいるの北川じゃない?」
笑っていた富永がどうやらクラスメイトを発見したようだった。
「あっ、本当だ。でも、知らない女の子と一緒だね」
みか先生の言うように、北川のそばにもう一人小さな女の子がいた。
「なんや、千紗ちぃやないか」
「知り合い?」
「あの子、塚本印刷っちゅう印刷屋の子やねん。おーい、千紗ちぃ〜!!」
由宇が叫ぶと千紗ちぃも気づいたらしく、こちらに手を振ってきた。
「あっ、関西のお姉さんですぅ!!こんにちはですぅ☆」
「わーっ、可愛い子ねぇ☆」
みか先生はなんだか嬉しそうだった。
どうやら、自分並に小さい子と会えたので嬉しいらしい。
けど実際並んでみると千紗ちぃの方が背が高かったので少し落ち込んだ。
(みか先生=148cm 千紗ちぃ=152cm)
「うっうっ、どうせどうせ…………」
みか先生はいじけてしまった。
「それはそうと北川は何してたの?」
いじけたみか先生のかわりに富永が北川に尋ねた。
「私は千紗ちゃんと遊んでたの〜、ね〜千紗ちゃん♪」
「はいですぅ☆千紗、北川のお姉さんからたくさんお菓子を貰いましたですぅ。とってもとってもおいしかったですぅ♪」
千紗ちぃは、そのお菓子の味を思い出したのか目がウルウルしていた。
それを横目に富永は軽くため息をついて呟いた。
「つまり、餌付けして楽しんでたってわけね」
「あはっ♪千紗ちゃん、可愛い〜♪」
そんなこんなで、それぞれのこみパの1日は終了した。

それから1ヶ月………
「中山、どうしてるのかな〜?」
「あれから学校も休んで特訓してるらしいぜ」
「どんなにうまくなってるか少し楽しみね」
みか先生のクラスでは中山のことで盛り上がっていた。
すると突然、教室の扉が開いた。
開いた扉の向こうに立っていたのは、中山だった。
「中山、ただいま戻りました!!」
特訓のせいか、少しやつれた様子だったが中山の周辺には以前と違うオーラが漂っていた。
「頑張ったようだな」
渡部が、ご苦労様とばかりに中山の肩に手を置いた。
「はい、中山頑張りました!!」
中山はとっても嬉しそうだった。
「それで、特訓の成果はどうだったの?」
小林が興味津々といった感じで尋ねた。
「はい、バッチリです。すばるさんから免許皆伝をもらいました。今から特訓の成果をお見せします!!」
そういうと中山は何やら構えをとった。
そして深く深呼吸をし………中山は叫んだ。
「大影流合気術最終奥義、地竜走破!!」
教室に中山の放った振動波が広がり、みか先生たちは次々と倒れていった。
「な、中山……お前、漫画の特訓をしてきたんじゃないのか………」
最後に渡部がそう言い残して倒れていった。
中山はしばらくボーゼンとしていたが、思い出したかのように叫んだ。
「中山、間違って漫画の特訓じゃなくて、合気術の特訓をしてきてしまいましたーー!!!!」
みんなが倒れた教室で中山の声だけがむなしく響いたのだった。

こみパのお時間 完