かつてこみパを掌握しようと企んだ組織『腹白い姉妹』
しかし、その野望は千堂和樹、そしてエンジェル隊の活躍によって、もろくも崩れ去ったのである。
こうして平和なこみパは守られたが、今また新たな闘いの幕が開こうとしているのであった。
宇宙空間を飛ぶ5機の紋章機。
それらはロストテクノロジーの回収任務を終えて、基地に帰還する途中のミルフィーユたちであった。
「ふ〜、それにしても今回の任務は楽勝だったな」
フォルテが紋章機のコックピットの中で言った。
「そうですね〜、いかにもって感じの文房具屋に丁寧に飾ってあったんですもの」
フォルテに合わせるように、蘭花が答える。
「でもこれって何なんですか?わたしには普通のGペンにしか見えないんですけど〜」
ミルフィーユが間の抜けた声でたずねた。
今回の任務でエンジェル隊が回収したロストテクノロジーは、一見たんなるGペンなのである。
「軍の情報によりますと……」
ミントが手元のパネルを操作して資料データベースを開く。
そこに表示された内容は以下の通りだった。
『伝説のGペン:これを手にしたものはどんな漫画でも、思い通りに一瞬で描くことができるという究極のGペン』
「と、いうことらしいですわ」
「ちなみに、この伝説のGペンを元にした簡易品は今でも文房具屋で売っています」
データベースの内容にヴァニラが付け加えた。
確かに原稿執筆スピードが2倍にupするGペンは、街の文房具屋で1万くらいで売っている。
「へ〜、すごいペンですね〜。それじゃあ、由宇さんや詠美さんとかは喜びそうなロストテクノロジーですね〜」
ミルフィーユのいう由宇や詠美とは、過去の腹白い姉妹との闘いで知り合った同人作家たちである。
「そうだな、奴らなら目の色を変えて欲しがりそうだな」
「確かにね〜」
と、こうしてミルフィーユたちがのん気な会話を交わしている時であった。
突然レーダーに未確認物体の反応を感知したのである。
「なんだ、一体!!」
「わかりません、ですがこの空域に戦艦クラスの機体がクロノ・ドライヴを使ってドライヴ・アウトしてきます」
クロノ・ドライヴ、それは簡単に説明すれば瞬間移動、某ロボットアニメでいえばボソンジャンプである。
「全員、第2戦闘配置。場合によっては攻撃するぞ」
フォルテがメンバーに指示をだす。
場に緊張がはしる、そして未確認物体が姿をあらわした。
「わ〜、可愛い〜♪」
そこに現れたのは、詠美がはまっていた某お話型育成ゲームのよっしーの姿をした戦艦だった。
「なんなんだ、一体?」
フォルテがボーゼンとしていると、特殊回線で通信が入ってきた。
「こんにちは、エンジェル隊の皆さん」
「お、お前は!!」
「あ〜、郁美さんだ〜☆」
通信ウィンドウに現れたのは立川郁美、別名いくみんの姿であった。
ちなみにエンジェル隊との闘いで敗れた、腹白い姉妹の首領でもある。
「ば、ばかな。お前はたしか前回の闘いで、こみパ会場もろとも爆死したはずじゃあ…」
「違いますよ、フォルテさん。彼女は、あの和樹ってやつに振られてそのショックでJUNE系を極めるべく修行に…」
「あら、わたくしの情報によると株で失敗してパトロン生活が出来なくなり、いまではホームレス状態のということですわ」
「………冷凍睡眠」
エンジェル隊は、いくみんの姿を見て好き勝手なことを言っている。
「どれも違います!!」
さすがに我慢の限界か、郁美が怒鳴った。
フォルテたちは大人しくなり、周囲に静寂がのこる。
「それでいくみんさん、今日はどんなご用件ですか〜」
その静寂を破るように、ミルフィーユが手を上げながら質問をした。
「それはもちろん決まっています。我が野望のために、その伝説のGペンを頂きにきたのです!!」
「な、なんだってー!!」
「そんなことはさせませんわ!!」
フォルテたちが攻撃態勢にうつる。
しかし郁美は慌てることなく話しを続けた。
「もちろんタダでとは言いません。それなりの報酬は払いますよ」
「報酬?」
その一言でフォルテたちの目が輝きはじめた。
「ええ、フォルテさんにはクラシック銃の数々もちろん火縄銃付き、蘭花さんには我が配下の超絶良い男を紹介します」
「火縄銃ってマジか!!」
「や〜ん、良い男ウェルカム〜♪」
「ミントさんにはレアなあれやあれを、ヴァニラさんには貴重なこけしをさし上げます」
「アレやアレなんて……すばらしすぎますわ」
「………神の贈り物です」
フォルテたちは、あっさりと買収された。
「だめですよ〜、フォルテさん。ちゃんと任務を遂行しないと〜!!」
「ミルフィーユさん、あなたには圧力釜をさし上げます」
「本当ですか〜。それじゃあ、お礼に伝説のGペンをどうぞですぅ♪」
こうしてエンジェル隊は、あっさりと腹白い姉妹に買収されたのであった。
一方、ところ変わってこみパ準備会本部。
今日も真面目にお仕事をするスタッフの南さん。
そこに電話の音が鳴り響いた。
「はい、こみパ準備会です………ええっ、そんな!!」
驚愕の内容に思わず南は、手に持っていた受話器を落す。
そして十分後、同室内では南によって召集された和樹・瑞希・詠美・由宇・すばる、そして大志の姿があった。
そんな和樹たちに対して、南は口を開く。
「今回、皆さんに集まっていただいたのはほかでもありません」
南はここで一息つくと、衝撃の事実を告げた。
「腹白い姉妹が復活しました!!」
シーンと静まりかえる室内、そこへ由宇がポツリと呟く。
「それで?」
「そ、それでって……あの〜、皆さん驚かないんですか?」
予想外のリアクションに戸惑う南。
しかし和樹たちはいたって冷静だった。
「だって郁美ちゃんは別に死んだりしたわけじゃないしな」
「そうね、あの子なら何回組織を復活させても不思議じゃないし」
和樹に同意する瑞希。
「オタクはしぶといというわけだよ、南女史」
大志がズビシと指をさしがながら言った。
少し困った様子の南だったが、それでも話しを続けた。
「でも、それだけじゃないんですよ。実はその腹白い姉妹に伝説のGペンのオリジナルが強奪されたという情報もあるんです」
「何だってー!!」
こっちには流石に全員が驚いた。
「しかも回収任務についていたエンジェル隊も音信不通だそうです」
「なんてことや……まさか手にしたものは一瞬にして原稿を完成することができるという伝説のGペンが…」
「それにエンジェル隊のみんなが行方不明だなんて…」
「こうしてはいられないですの、こみレンジャー出動ですの!!」
すばるのセリフを合図に、和樹たちは我先にと出撃用シャトルへと向かっていった。
「そして伝説のGペンはうちのものや〜!!」
「なに言ってるのよ、あのGペンは女王である詠美ちゃん様にこそふさわしいに決まってるじゃない!!」
「ふははははは、同人界の頂点を極めるべく我輩たちブラザー2が有効に使わせてもらおう!!」
「だめですのー、Gペンはすばるのものですのー!!」
「ちょっと、少しはエンジェル隊の人たちの心配もしなさいよ」
と、これは瑞希。
「大丈夫やって。エンジェル隊のみんななら殺しても死にそうもない連中やし無事に決まっとる」
「猪名川女史の言うとおり!!」
何だか激しく言い争っている和樹たちを見て、南は途方もない不安に陥るのであった。
和樹たちは、よっしー型宇宙戦艦の前までたどり着いた。
「ここが腹白い姉妹の、新しい拠点」
「可愛いですの〜☆」
「そうか…?ここまでデカイよっしーやと少し不気味な気もするけどなぁ…」
「ふみゅ〜ん、よっしーといえば詠美ちゃん様なのに〜。ネタをパクるなんてちょおちょおちょお生意気〜!!」
よっしー型宇宙船を見て、それぞれ勝手な感想を言い合う。
「ところでどうやって中に入るの?」
「そやな〜、壁でもぶちこわそか」
由宇がハリセンをかまえる。
「ちょっと皆さん、ここに玄関がありますのー!!」
すばるが何か見つけたらしく、和樹たちを呼んだ。
「そんな宇宙戦艦に玄関なんて…………あったよ」
そこには確かに玄関らしい扉があった。
しかも、ご丁寧に『腹白い姉妹』と表札までかけてある。
「あっ、鍵がかかってませんの」
すばるが扉に手をかけると、あっさりと扉は開いた。
「ひょっとしてワナか…?」
「でも我輩たちは行くしかあるまい」
「そやそや、虎子に入らずんば虎子を得ずや!!」
「それじゃあ、おじゃましますですの〜☆」
いかにも妖しそうな扉、もとい玄関から和樹たちは艦内へと侵入した。
中を思った以上に広かった。
まるでどこかのイベント場みたいに大きな通路が伸びている。
和樹たちは、人気の無い通路をどんどん進んでいった。
しばらくすると大きな扉が見えてきた。
他にわき道などは見当たらず、この扉からしか先へは進めそうにない。
「どう、開きそう?」
「ダメだ、鍵がかかっているみたいだ」
和樹が必至に扉を開こうとするがビクともしない。
由宇やすばるが強引に破壊も試みるが、推定超合金Zの扉は傷ひとつつかなかった。
「ダメか…」
「あきらめちゃダメですの、今度は皆さんの力を合わせるですの!!」
そして全員でタックルの構えをとる。
助走をつけ、全員で扉にぶち当たろうとした瞬間………扉は突然開いた。
しかし思いっきり助走をつけた和樹たちは急に止まることも出来ず、バランスを崩し全員顔面から床に突っ込む結果となってしまった。
「あいたた……何で急に開くんだよ…」
「こちらの行動を逆手にとりダメージを与える……敵さんもやりますの…」
「いいな〜、瑞希ちゃんはおっぱいクッションでダメージが少なくて」
「い、猪名川さん、何言ってるのよ!!」
そんなやり取りをしているうちに、室内の明かりがついた。
明かりで照らし出された内部は、何もない体育館のような部屋だった。
そこへ突如館内放送が響く。
「よく来たねー、こみレンジャーのみんな。でも、ここから先へは進ませないよ!!」
その声は和樹たちにとっても聞き覚えのある声だった。
「この声は……まさか、フォルテさんですの?」
そのすばるの声に答えるように、5人の人影が部屋の対面の扉から出てきた。
「大当たりだよ、すばる!!」
そこに現れたのは、すばるの予想どおりフォルテ、そしてエンジェル隊であった。
「エンジェル隊の皆さん、無事でしたのね!!」
「ああ、このとおりピンピンしてるよ!!」
言うと同時にフォルテは銃の引き金を引く。
弾は、すばるの足元の床に突き刺さった。
「な、何をするんですの!!」
状況が理解できない和樹たちに、フォルテが説明する。
「悪いね、ちょっとしたついでにこの船の用心棒をすることになったのさ。だから侵入者のあんた達を排除しないといけないってことさ」
「そうなのよ〜、ここって時給良いのよ〜♪」
蘭花が嬉しそうに言う。
「3食昼寝つきで、あれもあれも着放題。夢のような環境ですわ」
ミントはミミをピコピコして嬉しそうである。
「………お祈りし放題………」
ヴァニラは、あいからわず無表情。
「そ、そんな…みなさんは正義の味方じゃなかったんですの?」
すばるが悲しそうにたずねる。
目の前の状況が信じられないといった感じだ。
「いいや、ちがうよ(わよ・ますわ)」
フォルテ・蘭花・ミントが、アッサリと口をそろえて答えた。
「えっ………」
愕然とするすばる、そしてすばるを押しのけるように由宇が前にでた。
「まっ、あんたらが正義の味方だろうと悪の手先だろうとどってでもええ。うちはうちの任務をやり遂げるだけや」
「というか、自分の欲望のためでしょ」
瑞希がボソリと呟く。
もちろん由宇はそれを聞き逃さず、瑞希の両ホッぺをつかみおもむろにひっぱった。
「よけいなこと言うんは、この口か〜!!」
「ご、ごふぇんなはぃ〜」
涙目になりながら謝る瑞希から手を離すと、由宇は再びフォルテたちに向かって構えをとった。
「あんたらには恨みはないが、強行突破させてもらうで!!」
そう言って由宇はハリセンを構える。
「だから、それはさせないって言ってるだろ〜!!」
フォルテは由宇のハリセンに対抗して、巨大なマシンガンを取り出した。
「ゴム弾だから死にはないけど、当たると死ぬほど痛いよ!!」
次の瞬間、マシンガンから弾が乱射される。
「ぬなっ!!」
さすがの由宇も銃の名手フォルテの狙いはかわし切れず、何発か被弾して吹き飛んだ。
「由宇!!」
和樹が倒れた由宇に駆け寄ろうとする。
だがフォルテがそれを阻止した。
「オラオラ、みんな仲良くやられちゃいな!!」
「うわぁ!!」
和樹たちは必至に銃弾をよけていた。
先には進めないが、この距離ならそうそう当たりはしない状況である。
「ちぃ、ちょこまかと動いて。何か奴らの動きを止める方法はないのか!!」
フォルテが苛立ちを隠せず叫ぶ。
「あら、それでしたら丁度いいものを持ってますわ」
そう言って、ミントは持っていたバッグの中から何かを取り出した。
「こみレンジャーの動作ストップスプレー♪」
取り出したのは、いかにも妖しそうなスプレー缶だった。
「そーれ♪」
ミントがスプレーを一振りすると、効果はすぐにあらわれた。
「う、うごけないですの」
「ふみゅ〜ん、どういうことなの」
和樹たちはダルマさんが転んだ、で鬼が振り向いた時のように動けなくなってしまったのだ。
「よくやった、ミント!!これで私たちの勝利だ!!」
フォルテが改めてマシンガンをかまえる。
和樹たちは銃口を前にしても、やはり指ひとつ動かせない状態だ。
(やられる…)
全員がそう思った瞬間だった、エンジェル隊の前をひとつの人影が横切った。
「誰だ!!」
この部屋にいる全員の視線が、その謎の人影に集中する。
「ふははははは、誰もなにも我輩は最初からここにいたではないか!!」
独特の笑い声、人影は九品仏大志その人だった。
「そんなおかしいですわ、こみレンジャーの方はこのスプレーで動けないはずですわ」
慌てるミントをよこに、大志はこう言った。
「何故、我輩が動けるのが不思議か?笑止、そのスプレーはこみレンジャーの動きを封じるもの……ならばこみレンジャーでない我輩にとってはまったくもって効かないのは当然であろう!!」
大志の言葉に、由宇が大きく頷く。
「なるほど、こみレンジャーはスの字に瑞希ちゃん、和樹に詠美、そしてうちがメンバーや。大志はんは単なる参謀、こみレンジャーやあらへん」
「そ、そんなの卑怯ですわ!!」
声を荒げて怒鳴るミント。
そのミントの前に、大志は1つのスプレー缶を取り出して見せた。
「それは……もしかして…」
「そのとおり、ミント女史。これはエンジェル隊の動作ストップスプレーなのだよ」
そして大志は、そのスプレーを空中に散布する。
「うわっ、マジで動けないよ、こりゃ」
「うえ〜ん、鼻の頭が痒いのにこれじゃあ、掻けません〜」
「………神の国が見えます………」
こうして部屋の中には大志以外、動ける人間はいなくなってしまった。
「さて、これからどうしたものか」
大志が考えていると向こう側、つまりエンジェル隊が出てきた扉が開いた。
「むっ、お前は…」
扉から出てきたのは、なんと腹白い姉妹首領立川郁美だった。
「なんだか基地内が騒がしいと思ったら、和樹さん達じゃないですか。どうしたんです、こんなところで?」
郁美は状況が理解できていない感じらしく、和樹に尋ねた。
「何って郁美ちゃんが伝説のGペンを強奪したっていうから、その取り返しに来たんだけど…」
ちょっと拍子抜けしたような声で和樹が答える。
郁美はしばらく考えてから、何かを思い出したように言った。
「ああ、あれのことですか。そのGペンならもう和樹さんの家に宅配で送りましたよ」
「えっ、俺の家に?」
「そうです、パトロンとして和樹さんには最大限のことをしてあげようと思って、それで伝説のGペンをGETしたんです」
「は、はぁ…」
和樹をはじめ、由宇たちも言葉をなくした。
「あの…私のプレゼント、気にいりませんでしたか?」
郁美が心配そうに尋ねる。
「いや、そうじゃないけど…」
返事に困った和樹が言葉を詰まらせた。
と、その和樹の喋ったのとほぼ同時であった。
「ちゅうことは今、伝説のGペンは和樹の家っちゅうことかー!!」
突然、由宇が叫ぶ。
「こんなところでのんびりしている暇はあらへん。急いで和樹の家へいってGペンをGETや!!」
そう言うと、さきほどまでスプレーで動けなかったはずの由宇は猛ダッシュで走り去っていった。
「ふみゅ、Gペンを1人占めする気ね、そうはいかないんだからー!!」
由宇に続いて詠美も走り去っていった。
「ちょっと、由宇に詠美、待てよ!!」
「ぱぎゅう〜、すばるをおいて行かないでくださいですのー!!」
「えーと、そういう訳で郁美ちゃん、お騒がせしました。ほら、大志も帰るわよ!!」
それに続いて、和樹・すばる・瑞希・大志もすごすごと出ていってしまった。
あとに残された郁美は訳がわからずボーゼンとするのであった。
こうして、腹白い姉妹とこみレンジャーの伝説のGペンをめぐる攻防は集結したのである。
和樹の家では伝説のGペンをめぐって、こみレンジャー同士の醜い争いがいまだに繰り広げられているが、それはまた別のお話。
☆完☆