『美汐 Another Story』

・・・・・私の純粋な望みだった・・・・・・
・・・・・だけど・・・・・・
・・・・・それがあの孤にとって・・・・・・
・・・・・それが美孤にとっての・・・・・・
・・・・・幸せになりえたのだろうか・・・・・

中編

 翌日学校のなかった私は朝1番におばちゃんの家に行った。
「ねぇ、美孤はいるぅ?」
 息を切らしながら走って家に入った私をおばあちゃんは笑いながら見て、
「お前はいっつも元気だね。美孤は今、庭にいるよ」
 私はおばあちゃんに笑顔を向けた後、走って庭まで美孤に合いに行った。
「美孤、いる〜?」
 私はそう聞くと、庭でポツリと座っている美孤がこちらに振り向いた。
「おはよう、美汐」
「おはよー、何してたの、美孤?」
「雲をみてたの・・・・」
「雲を・・・・!?」
「うん」
 美孤がそう言ったので私も少し空を見上げてみた。しかし、空はなにも変わったこともなく、ひどくゆっくりと雲は流れているだけだった。
「なにか変わったことでもあるの?」
 私が聞くと、美孤は上を向き空を見上げて、
「別に・・・・ただちょっと考え事をしてたの」
「んっ?・・・・・・何を考えていたの?」
「・・・・・・」
 私がそう聞くと、美孤は無言でこちらを向いた。
「・・・・・どうしたの?」
 美孤はぼーっとしてるようだったが何かを考えているようでもあった。
「雲ってどんなに止まって見えても、必ず動いてるんだよね・・・・・・それと一緒で、どんなに楽しい時間も止まる事は無く、必ず終わるときが来るんだよね・・・・・・当たり前のことだけど、それは辛い現実・・・・・永遠なんてありはしない」
「そうだね、永遠なんてないよね。でも・・・・・私は永遠なんていらないと思うよ」
「どうして?」
 美孤は不思議そうな顔で聞いてきた。
「だって永遠っていうことは不変って事でしょ。変わらないなんて面白くないじゃない」
 私がそう言うと、
「そうかもしれないね」
 美孤は笑いながら言った。
 しかし、そう言った美孤の笑った表情に何か寂しそうな感じを私は受けた。
「さぁ、今から何をするの・・・・美汐?」
 私は美孤にそう言われたが、心の中に引っかかった問題を拭い去れずにいた。

・・・・・それは私にはわからない・・・・・

 夕方までひとしきり遊んだ美孤と私は、おばあちゃんの家へと帰った。
「ただいま〜」
「ただいま」
 私と美孤が帰宅の挨拶をすると、家の中から、
「お帰り」
と、あばあちゃんの声が聞こえてきた。
 私たちが居間に行くと、おばあちゃんがテレビを見ていた。
「おばあちゃん、今日は私もココで晩御飯食べていっていい?」
「あぁ、いいよ。その代わりちゃんと家には連絡入れておくんだよ」
「うん、わかった。今から連絡してくる」
 私は電話があるところまで走って行き、早速家に連絡を入れた。
「うん・・・・・そう、おばあちゃんとこで食べて帰るから・・・・・・うん、わかった、早く帰るよ・・・・・うん、んじゃぁ」
 私が家の許可をとって居間に戻ろうとして近づくと、何か真面目な口調のおばあちゃんと美孤の声が聞こえてきた。
「どのくらいまで大丈夫なんだい」
「わからない、でもそんなに長い間じゃないと思う」
「そうかい・・・・・」
 私はおばあちゃんの声に、落胆しているような感じを受けた。
「でも不思議だね、お前は。お前たちは記憶を無くさなければ人間になれないはずなのに、なんでお前は記憶があるんだろうねぇ」
「それは、私が美汐の願いを叶えるために私が望んだこと」
「たしかに、そんなことは出来なくもないみたいだけど・・・・・・」
 おばあちゃんは、不思議そうな声で美孤に向かって言ったようだった。
「うん・・・・・・その代わり・・・・・・・二度と奇跡は起こらない」
「・・・・・・・・そう言うことかい・・・・・・しかし、お前はそれで満足かい?」
「美汐が大好きだから・・・・・・・私はそれで十分」
「そうかい・・・・・・それならお前も美汐も覚えておくがいいよ」
 私はハッとした。おばあちゃんは私が部屋の前にいるのに気付いていたようだった。
 私は呼ばれて、すごすごと部屋の中に入って行き、ちょこんと美孤の隣に座った。
「美汐は今までの会話が理解できてないだろうけど、お前も今から言うことをよく覚えておきなさい・・・・・美孤、お前は今、二度と奇跡は起こらないと言ったけどそんなことはないよ。いつ、いかなる時も、いかなる場合であっても、自分たちが諦めなければ奇跡は起こせるという事を覚えておきなさい。そうすればきっと奇跡は起こるはずだよ」
 おばあちゃんはそう呟くように言うと、いきなり席を立ち、
「じゃぁ、ご飯の準備でもするかねぇ」
と、何事もなかったようにご飯の準備にかかった。
「ねぇ、なんの話だったの?」
 私が美孤に訝しげに聞いてみると、
「うん・・・・・今は知らなくていいよ。そのうちわかることだから・・・・・」
 そう呟く、美孤の顔はやはり暗いものだった。
「そっか、なら言えるときが来たら、ちゃんと教えてね」
「うん、美汐。約束するよ」
 私はこの時に、美孤の言うべき事がわかっていたのかもしれない。ただ、それを私が追求しなかったのは、口に出して聞くのを拒んだからだったのかもしれない・・・・

・・・・・・・・・

 それから数週間、私と美孤は毎日のように一緒に遊んだ。
 学校がある日は授業終終了後に急いで美孤に会いに行き、学校が無い日は前日からおばあちゃんの所に泊まりに行き、夜遅くまで一緒にあそんだ。
  しかし、「止まって見える雲も必ず動いている」・・・・・そう言った美孤の言葉通りに現実は確かに進んでいた。私の見えないところで・・・・・・・・