美汐SS「悲しき記憶」

 

 「今、相沢さんは束の間の奇跡の中にいるのですよ。そして、その奇跡とは、一瞬の煌きです。あの子が自らの命と引き換えとして手に入れたわずかな煌きです。それを知っていてください。」

 そう、あの時私も知っていたら・・・。

 昔々の出来事だった。

 封印したはずの私の記憶。

 私はお母さんとのお買い物から帰り道に見つけたのだった。

 「ねえ、お母さん。あのきつねさん怪我してるよ。」

 そのきつねさんは足からは血がでていた。

 「かわいそうだよ、お母さん。」

 きつねさんは痛かったのか、顔をゆがめていた。

 「ねえ、お母さん。・・・私が面倒見るから・・・連れて帰ってもいい?」

 そして私は傷ついたきつねさんを家に連れ帰り面倒を見る事にした。

 私は一生懸命面倒を見た。

 まるで大事な人の看病をするかのように。

 そしてきつねさんに言った。

 「きつねさん、早く元気になってね。元気になったら一緒に遊ぼうね。」と。

 しばらくしてきつねさんは元気になった。

 そして私ときつねさんは友達になった。

 私が学校から帰ってからいつも一緒に遊んだ。

 いつも野原を駆け巡り日が暮れるまで遊んだ。

 気づけば二人は大親友になっていた。

 そして私達はいつも一緒に過ごしていた。

 ご飯を食べる時も、風呂に入る時も、そして寝る時も・・・。

 私はきつねさんにいつも一方的に話しかけていた。

 ある時私は言ってはならない事を言ってしまったのだった。

 その時は何気ない一言だったのだが、後にものすごく後悔した言葉だった。

 「私達お話できたらもっと楽しいのに。そうしたらもっと仲良くできるのにね。」

 という一言が。

 次の日きつねさんはいなくなった。

 私は必死に探した。しかし見つからなかった。

 私は泣いた。

 でもあの時の悲しみは今の悲しみに比べてずっとマシだったのだ。

 だって今、あの子はもう・・・。