『彩ちゃんのシンデレラ』      ナレーションby桜井あさひ

これは昔々の物語…

まだ王室で同人活動が盛んだった頃の物語…そんな時代があったかは一先ずおいといて…

そんな時代のあるところに特に同人活動のさかんな国がありました。

そこには『長谷部彩』というそれはそれはかわいい女の子が住んでいました。

彩ちゃんは漫画を書くのがとても大好きな女の子でした。

そして出来た漫画を両親に見せるのが、両親に喜んでもらうことが大好きでした。

でもその両親も彩ちゃんを残して亡くなってしまいました…

そうして幼くして両親を亡くした彩ちゃんは、義母に引き取られました。

引き取られた義母の家は『チームCATor一喝!by辛味亭』というサークルで同人活動をしていました。

それも結構大手のサークルさんでいつも壁のサークルさんでした。

そんなサークルさんのお家で彩ちゃんも同人活動をすると思いきや…

そこで彩ちゃんを待っていたのは家事全般、同人活動のアシスタントなどとにかく大量のお仕事でした。

義母役:由宇「こら、彩!まだ夜食のカレー(激辛)できへんのか!!」

姉1役:詠美「ちょっと彩!この詠美様に代わってここにトーン貼っときなさいよね」

姉2役:玲子「彩ちゃ〜ん♪明日までに『翔様』のコスの衣装作っていてね〜、にゃははは♪」

などなどまさに二十四時間年中無休状態でした。

そんなサークル活動が盛んなお家でしたが、彩ちゃんに与えられた画材は『わら半紙』と『HBの鉛筆』だけでした。

トーンのかけらも与えられませんでした。

それでも彩ちゃんは暇を見つけてはこつこつとわら半紙に漫画を書いていました。

たとえ、わら半紙に鉛筆ですが彩ちゃんにとって漫画を書けるその時間はとても幸せでした。

 

そんなある日のことです。

年に一度のお城での同人誌即売会が開かれることになりました。

しかも今回の即売会で王子様の目にとまったサークルの女の子は王子様のお嫁になれるとか、

王子様直筆サイン入り同人誌をもらえるとか、幻のGペンが進呈とか、トーン一年分進呈とか、

来季ホームラン40本は固いとか…まあ、いろいろな噂が飛び交っていました。

もちろん彩ちゃんの義母のサークル『チームCATor一喝!by辛味亭』も出店します。

彩ちゃんも三人の新刊のために通常の1.5倍(当社比)はこきつかわれました。

そうして無事に新刊の完成した義母たちは意気揚揚と即売会へと向かいました。

けれど彩ちゃんが、わら半紙に書いた原稿はコピー本にもしてもらえずに、彩ちゃんはお留守番でした。

そして三人をお見送りして後、部屋で寂しく過ごしていると、どこからともなく女の子の声が聞こえてきました。

不思議に思い耳をすまして聞いてみるとなにやら、

「にゃあ〜!」とか「お姉さんどこですかぁ…」とか「千紗、迷子になっちゃいましたぁ…」

など言っているようでした。どうやら迷子みたいです。

彩ちゃんがこれは大変!とばかりに外に迷子を探しに行こうとしたそのとき、部屋の窓が突然開きました。

「にゃあ!彩お姉さん、とうとうみつけたですよ!!」

その声の方を振り向くと、一見小学生にも思われる、今話題のアニメ『CMピーチ』のコスをした女の子が立っていました。

彩ちゃんはしばらく状況が把握できずに黙ってその女の子を見ていましたが、しばらくして

「………コスプレイヤーさん?……」

と、ポツリとたずねました。するとその女の子は、

「にゃあぁ!違いますです!千紗は魔法使いさんですぅ☆」

そう叫びつつなぜか決めポーズまでとっていました。

「……………?」

彩ちゃんが状況をいまだ理解できていないのも気にしないで女の子(自称魔法使い)は続けて話しました。

「千紗が、いつも頑張りやさんの彩お姉さんをお城の即売会に参加できるようにしてあげますですぅ☆」

「………えっ」

お城の即売会に参加、という言葉を聞いて彩ちゃんは一瞬驚きました。

でもやっぱり目の前のコスプレイヤーさんがどうやって?という気持ちの方が大きかったみたいです。

そんな彩ちゃんをやっぱり気にした様子がないまま女の子はさらに話しを続けました。

「千紗がそのお姉さんの、わら半紙に書かれた原稿を魔法で本にしてあげますですよ!」

「………本当…ですか?」

「もちろんです!品質、早さ、値段、どれも一流の塚本印刷にお任せですぅ☆営業・校正・経理など全て……」

と、突然営業口調になった女の子に彩ちゃんは

「……ひょっとして…印刷屋さん?」

また、ポツリとたずねてみました。

「え?千紗、何か変なこと言ってましたですか?」

「……印刷屋さんの……営業をしてました」

「そ、それはきっと、き、気のせいですよ…」

「………そうですか?」

「そうです!それでは早速、魔法でお姉さんの原稿を本にしますですぅ、えいっ!ですぅ☆」

と、女の子がステッキを一振りすると、なんと『スキャナ』が出てきました。

「まだまだですよ!えいっ!えいっ!」

さらに女の子が二度、三度とステッキを振ると『印刷機』『製本機』『インク』『紙』などがどんどん出てきました。

なんと、あっという間に彩ちゃんのお部屋は印刷所になってしまいました。

多少、大型の機械は部屋の壁を突き抜けていたりしますが………

「それではお姉さん少しお待ちくださいですぅ、今、千紗が印刷しますですぅ☆」

そう言うと女の子は印刷作業に取りかかりました。

彩ちゃんはだまって横で見ていましたが、しばらくすると、

「にゃあ!か、紙が〜!!」とか「にゃあ!インクが〜!!」

と、にゃあにゃあ、という声が響き渡ってきました。どうやらトラブルが多発しているようです。

そこで彩ちゃんは女の子に一つ提案してみました。

「あの………魔法で直接本には…できないのでしょうか?」

そしてしばらくの沈黙の後、

「にゃあぁぁぁ〜!!お姉さん、とっても頭いいですぅ!!千紗、そのことに気づかなかったですよ!」

女の子はとっても感心していたみたいです。そして、

「それでは、原稿よ!オフセット本にな〜れ!ですぅ☆」

とまたステッキを振るといとも簡単に彩ちゃんの原稿はカラー表紙のオフセット本になりました。

「さらに、えいっ!ですぅ」

女の子がまたステッキを振ると今度は彩ちゃんの衣装が見事な『CMピーチ』のコスになりました。

「さあ、これでバッチリですぅ☆後は外に運送屋さんも待機してますから早速お城に行くですよ」

女の子の言葉に彩ちゃんが外を見てみるといつのまにか外に運送屋さんのかぼちゃのトラックが停まっていました。

早速出来た同人誌をトラックに積み、いよいよ出発というとき女の子が彩ちゃんに忠告しました。

「お姉さん、一つだけ注意してくださいですぅ!千紗の魔法は夜中の12時で解けちゃいますですから必ず12時までには帰ってきてくださいですよ!」

彩ちゃんは『コクッ』とうなずくと、

「………ありがとう…」

と言ってお城へと向かいました。

 

お城ではもうすでに即売会が始まっており、ものすごい人だかりでした。

なにしろ国民の人口の半分以上が参加するイベントです。もう死人が出ても不思議じゃない混み様です。

そんなイベントなので誰が王子様かも不明という状況なのです。一般的にいうお忍びってやつです。

早速、彩ちゃんは自分のスペースに本を並べ始めました。

けれど、本を並び終えてから十分、二十分たっても一冊も売れません…彩ちゃんのスペースには閑古鳥が鳴いてました。

どうやら彩ちゃんの本はその独特の画風からか描かれた表紙が一見してなんの内容の本かわからないという欠点があるようです。

さらには漫画の絵もリアルすぎて重苦しい印象があるらしいです。話しの内容はいいのに絵で損をしているみたいです。

などと彩ちゃんの漫画を分析している間もお客はきませんでした…

けれど即売会も終わり近づいた頃、

「少し拝見させてもらってよろしいかな?マイシスター!」

とうとうお客さんが来てくれました。

そのお客さんはしばらく彩ちゃんの本を読んでいたと思ったら突然、

「これこそ吾輩の捜し求めていた同人誌だ〜〜〜!!」

と叫びました!!しかもオーバーアクションで!!

そのちょっと変わったお客さんはオーバーアクションで叫んだ後、唐突に彩ちゃんの方を向きなおして、

「マイシスター!吾輩と漫画を書かないか?」

と、ポーズを決めながら問いかけてきました。

彩ちゃんはあまりに突然のことでなんだか動きが止まっています。

「おっと失敬!自己紹介がまだだったな。吾輩は九品仏大志、この国の王子である」

「………あっ……」

ようやく思考能力が回復したのか、彩ちゃんが驚いたようにつぶやきました。

「………王子…様?」

「うむ、今回の即売会で吾輩は我が野望の実現するための片腕になる人物を探していたのだが、そなたこそが吾輩の同士になるにふさわしいようだ!」

そう言うと大志王子は彩ちゃんに手をさしのべ、

「さあ、吾輩とともにおたく界の頂点に立とうではないか!!」

彩ちゃんはその王子の手をそっととり、一言、

「………はい……」

こうして彩ちゃんは、大志王子の片腕として認められたのでした。

しばらく大志王子は自分の野望について熱く語っていましたが、ふと、

「ところでマイシスター、先ほどの同人誌の他にもっとそなたの同人誌はないかね?」

またポーズを決めながら問いかけてきました。

「………あります…」

彩ちゃんはカバンから次々と何種類もの同人誌を取り出しました。

もちろんこれも魔法使いの女の子が印刷した同人誌です。

「………どうぞ…」

彩ちゃんが同人誌を差し出すと、大志王子はその受け取った同人誌を次々を読み出し始めました。

そして大志王子が最後の一冊を手に取ったとき………

『ゴーン、ゴーン、ゴーン』

と時計台の鐘が鳴り始めました。

そのとき彩ちゃんの脳裏にふとあの魔法使いの女の子の

「お姉さん、一つだけ注意してくださいですぅ!千紗の魔法は夜中の12時で解けちゃいますですから必ず12時までには帰ってきてくださいですよ!」

という言葉がよぎりました。

そして時計を改めて見るとこの鐘こそが12時の鐘だったのです。

「………………!!」

彩ちゃんは咄嗟に、王子様が読んでいた同人誌やそのほかの同人誌をすばやく回収して鐘が鳴り終わる前にその場をたちさろうとしました。

その動きは普段のワンテンポ遅れの彩ちゃんの動きを遥かに凌駕した一種の神懸り的なすばやさでした。

さすがの大志王子もあまりの早さに一瞬対応が遅れてしまい、気づいたときには彩ちゃんは会場の人込みの中に消えてしまっていました。

「……どうしたというのだ、マイ同士…」

大志王子はしばらく呆然としていましたが、ふと足元に落ちている一枚の紙に気がつきました。

拾って見るとそれは、わら半紙に書かれた漫画の一ページでした。

「こ、これは、同士の原稿!!」

さすがは大志王子!一目でその原稿が彩ちゃんの書いたものだと見ぬいたようでした。

そして次の日から、大志王子の彩ちゃん探しが始まりました。

「この原稿の続きを見事に書き上げたものこそ、マイ同士だ!!」

と叫びつつ………

 

大志王子の彩ちゃん探索から数日後、とうとう彩ちゃんの義母の家にも大志王子一行がやってきました。

早速、義母&姉(二人)が挑戦しましたが………見事に玉砕しました。

どれも大志王子を満足させられる出来ではなかったようです。

「うむ、ここも違ったか…」

と大志王子が立ち去ろうとしたその時、

「………あの……お掃除…終わりました…」

彩ちゃんが部屋の奥から出てきました。

「なんや、彩!今、王子様がいらっしゃってるいうのにそないな格好で…掃除が終わったら洗濯でもしとき!」

義母の言葉に再び彩ちゃんが奥にもどろうとしたとき

「ちょっと待て!その娘にもこの漫画の続きを書かせてみるがいい」

「で、でもあの子はこの前の即売会にも行ってないんやで」

「そ〜よ、彩は詠美ちゃん様のしたぼく(下僕)なんだから留守番だったのよ」

「え〜い!!吾輩が書かせろ、と言っておるのだから早く書かせるがいい!!」

「しゃ、しゃ〜ないな〜。ほな、彩書いてみい」

「ふみゅ〜ん、しおしお〜」

こうして無事に彩ちゃんも原稿を書くことが出来ました。

もちろん結果は………

「おお!!これこそ吾輩が求めていた原稿の続き!!そなたがマイ同士であったか!!」

ということでめでたく大志王子との再開をはたした彩ちゃん。

その後、サークル『ブラザー2』で同人誌界の頂点に上り詰めた大志王子!!

そしてその横には常に彩ちゃんの姿がありましたとさ…めでたし、めでたし♪